【Review】オフィスビル総合研究所「ベースビル研究会」:新 次世代ビルの条件
本書は今から10年前に「次の時代に社会・経済・人間が求めるオフィスビルはどのようなものか」というテーマで、出版されました。
テーマがテーマなので、実務に直結するような知識が得られるわけではないですが、1つあたり4~5ページでまとめられているトピックは建築、設備、投資、管理、環境、FM等多面的な視点で設けられているので、ある程度実務を経験された方なら、気づきが持てるような構成になっています。オフィスビル総合研究所は三幸エステートの関連会社ではありますが、それほど市場性偏重という感じではなくて、むしろその話題は少ないくらいです。
10年経ってみてこの中で言われていることの中ではシステム天井や環境系(環境規制)の話あたりは概ね書かれているような展開にはなっています。逆に本書が全編にわたって推しているスケルトン・インフィルについてはまったく主流にならないまま現在に至っています。
個人的には「LCCを考えたら、設備には特注品を使用するのは避けるべきだ」という主張には特注品だらけの物件を管理した経験から非常に強く共感します。
2014年に続編となる『オフィスビル2030=-近未来ーオフィスビルは必要か?』も出版されているので、どのようにスタンスが変わったのか見てみるにもよいかと思います。いずれにせよ、落ち着いた時間のある時に読むべき本です。
【Review】三菱信託銀行不動産コンサルティング部,日本プロパティソリューションズ:ビルオーナーのためのプロパティ・マネジメント入門
- 作者: 三菱信託銀行不動産コンサルティング部,日本プロパティソリューションズ
- 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
- 発売日: 2004/03/26
- メディア: 単行本
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本書は、不動産証券化黎明期、アンバンドリングと呼ばれて不動産にかかわる各機能が分かれていく過程でプロパティ・マネジメント(PM)という言葉が出て定着しつつあったころにその業務の内容を概説したものになります。
そもそも不動産といってもオフィスビル系の書籍というのは非常に少なく、中でもPMという比較的裏方的な仕事の解説書というのはほとんどなかったので、2000年代半ばくらいの若手プレイヤーで読んでいる人は結構見ました。
出版から10年以上経った今でも、やや時代を感じさせる部分はありますが、PMの基本的流れについては120ページくらい(120ページ以降の鑑定評価の説明は蛇足)で把握できる「入門書」となっています。日本プロパティソリューションズ(JPS)は三菱(UFJ)信託銀行系のPM会社で記述の信頼性も高いです。
一方で、「理想的な管理運営体制」「人材の在り方」というのが今から見ると強く出すぎている感があって、フィーの低下化から疲弊して久しいように思える現在の状況と比べると違和感を覚えます。
「プロパティ・マネジャーはまず、テナントリーシング、会計、ファイナンス、建物維持管理、不動産に関する法、契約実務、保険等の実務所上の基礎知識を一通り持つ必要があります」
「あわせて、経済環境と企業動向、業種ごとの景気動向、機関投資家の投資動向等、よりマクロ的な視点からの分析を常に怠らないことも必要」
「基礎知識があるのは前提として、それに基づいた豊かなコミュニケーション能力、多くの経験によって高めていくことが必要」
スーパーマンを求めているわけではない、とは断っているけど、これを一通りこなせる人材はPM会社には留まっていないでしょう…
【Review】岩田 研一:「ビル」を街ごとプロデュース---プロパティマネジメントが ビルに力を与える
本書は財閥系不動産会社の子会社(三菱地所プロパティマネジメント株式会社)のことを紹介しているのですが、子会社、しかも所謂管理会社がこういう本を出すのは珍しいなと感じます。
もともとのルーツの一つである横浜ランドマークタワー立上げの話や東日本大震災の時の話、丸の内のライトアップの話など一つ一つの話は経験上この会社なら確かにありそうだな、というものばかりなので、この手の宣伝本としてはそれなりに本当のことを書いているだろうなとは思いました。
ただ、同じく経験上納得感がなかったのはこの本には彼らにとっての最大の顧客でもある親会社のことがほとんど触れられていない点ですね。彼らとは業務でも接したことはありますが、常に親会社に気を使っているの雰囲気が露骨にあるので、その光景と本の描写との落差が臨場感を減じていると感じました。
(大型施設を手掛ける)プロパティマネジメント会社を紹介した本としてはよくできている方だと思いますが、グループの中での子会社を描いた本としてはあまり出来が良くないというのが全体の感想でした。
「ビル」を街ごとプロデュース---プロパティマネジメントが ビルに力を与える
- 作者: 岩田研一
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2015/03/13
- メディア: 単行本
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【Review】一般社団法人省エネルギーセンター 編:ビルのエネルギー管理 基礎と実践
仕事柄不動産のエネルギー管理に気を使うことは多いのですが、直接的に収益に結び付かない、面倒という理由もあって現場のビル設備担当、プロパティマネジャーといえどもこの分野まで対応し、クライアントに対してわかりやすく提案できる人は少ないというのが現状です。
また、提案を受ける立場の人間もなかなかこの分野には精通していないことが多く、会話ができないというのもまた事実です。
不動産を経営・運用するという観点から、実践的な書籍というのは少ないのが悩みどころなのですが、本書は分量もそれほど多くないし、文系でもビル管理に携わった経験があればイメージできるという点で手堅いつくりとなっています。
これを読むとファンとかポンプとかビル管理をやっていると見聞きする設備の原理が簡単に解説されていますし、空調の方式の違いについても割と丁寧に説明しているので、設備を浅く広く学ぶという意味でもいいのではないかと思います。
ビルの省エネエキスパート検定という検定のテキストなので市販されていないのが残念ですね。
ECCJ 省エネルギーセンター / ビルの省エネエキスパート検定制度 検定公式テキスト「ビルのエネルギー管理基礎と実践」
【Review】金 惺潤: 不動産投資市場の研究―1992年から2011年の市場変遷と投資行動の二十年史
『不動産の価格がわかる本』は不動産業界に入った2~3年目くらいの若手社員が読むのに良い本だなぁ、と思ったのですが、同じような感想を抱いたのはこの本になります。
もう4年も前の著作ということに驚くんですが、バブル崩壊からリーマンショック経た仁保貸し日本大震災までの20年の不動産投資市場の歴史が丁寧に記述されています。当時業界にいた人ならば、どこかでかかわりのあったプレイヤーも登場すると思います。
私は当時、不動産賃貸市場のプレイヤーとして活動していたので、直接的な当事者かというと少し微妙なんですが、同僚や同期が転職していたり、取引先にもこの本に出てくるプレイヤーはいたりしました。
どのように不動産投資市場が盛り上がり、どのように崩壊していったのか。早いものでこの本のラスト(2011年)から既に6年が経ちました。我々が秀和のことをよく知らないようにダヴィンチアドバイザーズのことをよく知らないという世代も出てきているでしょう。
少々値は張る本ですが、そんな世代がこの2~3年の不動産市場を見るために、旧世代の人たちがどんな道のりを歩んだのか。それを知る目的で読むのに損のない本だと思います。
不動産投資市場の研究―1992年から2011年の市場変遷と投資行動の二十年史
- 作者: 金惺潤
- 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
- 発売日: 2013/03/01
- メディア: 単行本
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【Review】 クリス・ディノーヴィ、J.D.パワーIV世:J.D.パワー 顧客満足のすべて
J.D.パワーはもともとアメリカの顧客満足度調査会社で、日本の不動産業界だとケネディクスオフィス投資法人がテナント満足度調査を実施するときに起用している企業でもあります。
顧客満足の追求というと、現在の日本だと「お客様は神様」的な奴隷的奉公を求められるのではないかと思われる向きもありますが、この本だと投資に見合わない顧客満足の追求には意味がない(利益となる顧客行動顧客行動に結び付かない限り顧客満足には意味がない)と言っています。
顧客満足というのは直接的な利益向上に結び付いているのかわかりにくいので難しいところではあるのですが、現場を疲弊させずに継続的にサービスクオリティを上げていくためには常に必要な視点だと思います。
- 作者: クリス・ディノーヴィ、J.D.パワーIV世
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2006/08/25
- メディア: 単行本
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【Review】大和不動産鑑定 編著:不動産の価格がわかる本
本書は大手不動産鑑定業者の大和不動産鑑定株式会社が設立50周年を記念して2016年に発行したものです。
オフィスからインフラまで8分野のアセットタイプの概要説明とエンジニアリングレポート(ER)などの説明まで300ページで網羅しております。ここまでテーマが広くなると内容が薄くなりがちなんですが、決してそういうわけではないところが優れています。
カバーにもあるように、不動産のある分野の実務担当者向きで自分がそれほど詳しくないアセットタイプのことを簡単に理解するにはちょうど良いと思います。あるいは不動産業界に入ったばかりの新入社員が仕事で関わる以外の不動産のことを見るにも向いているんじゃないかと。
最後にケーススタディが載っていますが、フォーマットが統一された収益還元法の収支 構成になっているのも比較しやすいです。本の性質上これっきりの出版になるような気がしますが、5年くらい経ったら改訂してほしいと思わせます。