【Review】植野 正美:アメリカビル物語―プロパティマネジメント奮戦記
「本書は、プロパティマネジメント(不動産物件管理)のサクセスストーリーである」と冒頭で述べられている通り、不況下に竣工してしまったシアトルのビル(U.S. Bank Centre)を不動産のことなど何もわからないH社(ハザマ)の社員が立て直すという読み物風の本となっています。この文体はちょっと鼻につきます。
90年代半ばのシアトルが舞台なので、今から見ると20年前のアメリカの話なのですが、現代の日本と比べてみるという感じの軽い読み方をするのがいいのではないかと思います。
当時としてはトロフィーアセットというためか、新PM会社のLP社(ラサールパートナーズ)の担当チームが非常に潤沢で羨ましくなりました。今の日本のPM会社だと10万㎡級の物件でも意外と貧弱な陣容でまわしているケースも見受けられます。
また、人件費はPMフィーとは別建てでオーナーに請求できるというのは日本のPMが当初とはずいぶん違うものになっている要因であると思いました(アメリカは管理費が実費ということとのセットだと思いますが)
そしてオーナーがテナント内装費を負担するという慣習も日本でいう定期借家契約に基づく確定的で予測しやすい収益構造とのセットなのだと感じさせられます。未だに普通借家契約の日本では根付かないでしょう。
エピソードとしては清掃係にユニフォームを支給して士気と連帯感を高めたという話が好きです。
U.S. Bank Centreを検索してみたらCBREによるHPが出てきました。
【Review】中村 恵二 ,榎木 由紀子:図解入門業界研究 最新ホテル業界の動向とカラクリがよ~くわかる本[第3版]
図解入門業界研究 最新ホテル業界の動向とカラクリがよ~くわかる本[第3版]
- 作者: 中村恵二,榎木由紀子
- 出版社/メーカー: 秀和システム
- 発売日: 2016/07/27
- メディア: 単行本
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知らない業界のことが手軽に知るのに秀和システムの図解入門業界研究はよく利用しており、今回もあまり関わったことのないホテル業界の外観に触れるために購入しました。昨今動きが激しい業界でもあるので、第2版から4年での改訂となっております。
ホテルの定義から事業主体の分類、経営形態の分類、部門の説明、最近の動向まで見開き1~2ページ程度で説明しているのでサクサク読み進められるのがこのシリーズのいいところです。半面総花的ではあるので、さらに深く知るには専門書を手に取る必要があります。
時々誤植や間違いと思われる個所もあるので、それには気を付けたい。
図解入門業界研究 最新 ホテル業界の動向とカラクリがよーくわかる本[第2版]
- 作者: 中村恵二
- 出版社/メーカー: 秀和システム
- 発売日: 2015/09/25
- メディア: Kindle版
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図解入門業界研究最新ホテル業界の動向とカラクリがよ~くわかる本 (How‐nual Industry Trend Guide Book)
- 作者: 中村恵二,有地智枝子
- 出版社/メーカー: 秀和システム
- 発売日: 2006/11/30
- メディア: 単行本
- 購入: 1人 クリック: 8回
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【Review】渡辺 晋 ,日本ビルヂング経営センター:最新 ビルマネジメントの法律実務
本書はビルマネジメントに係る法律関係の話題にはしばしば登場する渡辺弁護士の概説書になります。関係の深いビルヂング経営センターも名前を連ねています。
ビルに係る法律問題を「ビルのいま」「ビルを借りる」「ビルを貸す」「ビルを守る」「ビルを託す」「ビルを買う」「ビルを売る」「ビルを建てる」に分けて解説しています。
260ページにこれだけ詰め込んでいるので正直一つ一つの話題は薄いと言わざるを得ないのですが、オフィスビルに限定した類書が少ない「借りる」「貸す」「守る」あたりは発行から10年経った今でも取っ掛かりとして役立つかと思います。
取っ掛かりという意味ではオフィスビルに関する裁判例の概要が豊富なので、この本をガイドにして個別の話題に関して別書で調べていく、という使い方が一番適しているかと思います。
【Review】杉原 淳子 , 森重 喜三雄 , 久野 喜義 他:新ホテル運営戦略論―日本型ホスピタリティ経営を目指して
最近ホテル(業界、事業、投資対象としての特性)を読み始めたのですが、本書は主に事業について概説したものになります。冒頭で『新総支配人論』という本の続編であることが述べられていますが、特に読んでいなくても問題ありません(私も読んでいません)。
200ページほどの本なので、それほど事細かくホテル事業について解説するということではなくて、当時(2009年)の業界の課題と各執筆陣の専門分野を重点的に取り上げているような構成です。
門外漢としてはユニフォームシステム、イールドマネジメント(レベニューマネジメント)についての概説は取っ掛かりとして助かりました。また、外資系ホテルと日系ホテルの営業組織の差異なども参考になりました。
その他目を引くのは、東日本大震災前にもかかわらずBCPに一章割かれていることで、これは不特定多数を顧客とするホテルアセットならではだと思います。
【Review】信田 直昭 , 不動産マネジメントビジネス研究会:オンリーワン時代の不動産マネジメントビジネス
オンリーワン時代の不動産マネジメントビジネス (住宅・不動産実務ブック)
- 作者: 信田直昭,不動産マネジメントビジネス研究会
- 出版社/メーカー: 住宅新報社
- 発売日: 2004/04/30
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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以前紹介した『ビルオーナーのためのプロパティ・マネジメント入門』と同じころに書かれているため、プロパティマネジメント(PM)、アセットマネジメント、ビルマネジメント(BM)の関係性がどのようになっていくのかということがまだ見えておらず、米国との比較で言及されている趣が強いです。
中心の話題はプロパティマネジメントなんですが、『ビルオーナーのためのプロパティ・マネジメント入門』と比較すると、実務者との対談形式なので、より現場寄りの話が多い印象です。
日本の法体系の中ではPM会社のリーシング部門は充実しにくい、BM会社の教育体制、現業部門疲弊など今でも運用上抱えているだろうという課題は出ていますが、2017年になっても特効薬は思いつかないですね。
特に共感できたのは「大規模開発プロジェクトの経営管理業務(その特徴・・課題・展望」という六本木ヒルズの街区統合管理を紹介した章で、権利者の多い大型複合施設の管理の概要が説明されているのが勉強になります。この手のスキームは15年くらい経つと構築時の当事者がほぼいなくなるので、今現在どのような課題が出ているのか、そういうことにも興味がわきます。
【Review】ジョーンズ ラング ラサール:東京オフィスルネッサンス 大量供給を迎えるオフィス市場と都市の活性
東京オフィスルネッサンス 大量供給を迎えるオフィス市場と都市の活性
2016年末にリリースされたレポートですが、今までなんとなく言われていた「空室率の低下の割に賃料が上がらない」現象の要因をまとめています。
空室率(三鬼商事)が3%台に突入しているので、当然、新規賃料上昇も継続賃料の増額改定も行われてはいるのですが、2006年の熱狂ほどではないのはなぜか。
空室率は2000年以降でもっとも低かった2006~2007年並と同じでも空室量となると当時の1.5倍である、という数字はとかく空室「率」の方に目を向けがちな傾向のある中、覚えておくべき現象だと思います。
時事性のあるトピックなので、コンテンツの寿命は短いと思いますが、2017年8月くらいまではこの説明で引っ張れるのではないかと。
【Review】西浦 三郎:ヒューリック ドリーム/企業の成長と社員のやりがい、トップは会社を変えられる
ヒューリック ドリーム/企業の成長と社員のやりがい、トップは会社を変えられる
- 作者: 西浦三郎,日経不動産マーケット情報
- 出版社/メーカー: 日経BP社
- 発売日: 2017/03/30
- メディア: 単行本
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今をときめくみずほ銀行系不動産会社ヒューリックの成長物語を社長が自ら語る本書は、スタイルとしては中期経営計画と私の履歴書の足して2で割ったような感じです。
個人的な記憶を思い起こすと、2010年ごろ、当時所属してた会社の同僚と「ヒューリック行きてぇな」と言い合っていたので、外から見ててもその頃から勢いが出てきていたのでしょう。そうすると7年以上勢いが続いているということになり、時に危うさを指摘されながらも、その勢いの一旦くらいは見たくて手に取ってみるわけです。
懐かしの日本橋興業時代の話から戦略の順序とタイミングを見極めながら、中堅不動産会社としての事業領域を広げていく過程やビジョンなんかは本を読んでいるというよりもPowerPointの資料を読んでいるかのようでさくさく進めることができます。
個人的には2日で物件取得の決断をするという決裁スピードの速さとその意思決定ルートが驚きで、この手の出自の会社で本当にそんなことができるのかとにわかには信じがたいです。西浦会長自身、今までは大きな失敗はなかったと言っているように、この話が本当だとしても現状ではこれでうまく回っているのでしょうが、一つ大きな失敗が起きた時、それを維持できるのかということが課題に残るんではないでしょうか。
ただ、この本の一番のメインターゲットは不動産業界人ではなくて就活生なんじゃないかなって思ってます。多少誇張があったとしてもあの職務環境を繰り返し強調されたら第一志望にする就活生結構多いんじゃないかな。同時にこの福利厚生が維持できるのは高収益体質が維持できている間だけ、という趣旨の(当然の)逃げ道も記載されています。