【Review】特掃隊長:特殊清掃 死体と向き合った男の20年の記録

 

 私はまだ遭遇したことはありませんが、不動産に関わっているとしばしば家で人知れず死んでしまった人の話を聞きます(実際本書にも不動産業の人間はよく出てきます)。

 

遺体があった部屋は物理的にも凄まじい状態になりますが、本書はそれを処理する「特殊清掃」に携わる"特掃隊長"がその仕事のことを淡々と記したものになります。仕事だからやっているというように本当に特掃隊長にとっては日常のこととして書かれています(各章は大体遺体が見つかって依頼が入るところから始まる)

 

病気の娘の余命がわかっていて、それを覚悟し、死んだ時も受け入れることができたが、娘の遺体が1日と経たないうちに腐敗して醜く膨れ上がることは覚悟も受け入れることもできなかった母親の話、いつもと同じように腐乱痕を処理していたら途中でそれが知り合いのものだったわかり、仕事を仕事として処理できなくなってしまった話、自分の恩人が孤独死するのを気づけなかったことを悔やみ、プロが感心するほど腐乱痕を処理していた依頼者の話が印象的でした。

【Review】宮内義彦:私の経営論

 

私の経営論

私の経営論

 

 毀誉褒貶のあるオリックス宮内義彦氏の経営論です。

私が就職活動をしていたころ、オリックスはかなり先進的な企業に見えましたが、十数年の時を経て、著書を読むと思っていたよりも保守的な考えで意外だったのです。

 

投資家(株主)との関係について「外国でのIRに塚らを入れたのは、海外には長期運用の年金基金や、大型投資信託など長い目で運用してくれそうな株主が多くいるように思っていたからです。オリックスの事業を理解して、中長期成長を期待している。それが長期投資につながる。そんな期待をしていましたが、実際はそうではない。」と書いてある箇所が印象的でした。

【Review】阿部 泰隆, 野村 好弘, 福井 秀夫:定期借家権

 

定期借家権

定期借家権

 

 本書は定期借家契約が導入される直前期に、当時の定期借家契約推進派の学者達によって書かれました。

 

これを見ていて面白いのは、導入期にあった(そして今でも散見される)定期借家契約反対派の「定期借家契約は借家人という弱者を困窮させる」という主張に対し「弱者を救済するために定期借家契約を導入する」と主張していることですね。

 

彼らの言う弱者とは「正当事由由来の住宅供給の歪みのために借りたくても借りられない潜在的な借家人(主としてファミリー層)、母子家庭、老人」なので、反対派のいう「弱者」は既得権益者となります。そして、正当事由理論を構築し、定期借家契約には反対していた当時の法務省民法学者も既得権益者に入ります。

 

基本的には推進派の学者たちによって書かれているので、バイアスはあるのですが、民法学者は「もともと公共が担保すべき弱者の住宅確保という福祉政策を、なぜ、地主や大家という私人に負わせ、犠牲にしたまま放置しておくのか」という問いに答えられないので、結局勝てませんでしたね。

【Review】一般社団法人日本テレワーク協会:テレワークで働き方が変わる! テレワーク白書2016

 

 本書はテレワーク(情報通信技術(ICT)を活用した場所や時間にとらわれない柔軟な働き方)の啓発と普及を目的としてその意義、事例、課題を紹介したものになります。

 

テレワーク自体は色々と言葉も変えながら、概念自体は2000年代から度々聞くことはありましたが、いまいち定着しないまま今日まで来ているというイメージを持っていました。フリーアドレスも特定の意識の高い大企業に普及している考え方と思っていましたが、本書の事例では従業員数十人の中小企業の事例もあり、自分が思っていたよりも世の中は先に進んでいるのかもしれないと感じさせられました。

 

テレワークの概念、大企業の事例、中小企業の事例、公務員(省庁、地方自治体)、クラウドソーシングなど網羅的に取り上げていますが、決して読みにくいということはない点はよいと思います。

 

一方で、導入にあたっての障害に「セキュリティ」を挙げており、予防策は取り上げているものの実際の事故が起こった場合の対応事例等は全くなく、これで不安を払拭できるとは到底思えない点は残念です。別の障害として挙げられている「粘土層と呼ばれる管理職」はこのようなことも懸念していると思うのですが、事故事例を取り上げないまま粘土層のレイベリングはフェアではありません。

また、立場上仕方ないのかもしれないですが、全般的にテレワークの悪い部分には触れないので、この点も不満に残りました。

 

全体的には興味のある人ならば一読してもよいと思います。

【Review】安能務:封神演義(上)(中)(下)

 

封神演義(上) (講談社文庫)

封神演義(上) (講談社文庫)

 

読んでいてもどうしても昔読んだ藤崎竜版『封神演義』のキャラクターデザインで脳内再生されるにもかかわらず、趙公明も聞仲も割とあっさり退場するなどのギャップが最後まで続きました。

人間側の戦いで終盤、商(殷)の抵抗が若干あるものの、基本的には西岐(周)が商を、闡教が截教をほぼ一方的に殺戮していく話で、出てきた武将や仙人が1ページで登場と退場をくり返す単純作業のような展開が続くので苦痛でした。

これに大幅なアレンジを加えて人気作にした藤崎竜はすごかったんだなというのが、読後もっとも強く湧き出た感想です。

封神演義(中) (講談社文庫)

封神演義(中) (講談社文庫)

 
封神演義(下) (講談社文庫)

封神演義(下) (講談社文庫)

 
封神演義 1 (ジャンプコミックスDIGITAL)

封神演義 1 (ジャンプコミックスDIGITAL)

 

 

【Review】会社四季報編集部:ラクラク使いこなす 会社四季報+会社四季報オンライン

 

 『四季報』は名前は有名ですが、きちんと読み方を教えてくれる人は意外と周りにいないということで、マニュアル代わりに読んでみました。その目的通り基本的には四季報のルールの解説になるんですが、春夏秋冬各号の特徴の違いや簡易的な企業診断の方法も記載されているので、無料ということを考えるとお得な本でした。

【Review】竹沢 えり子:銀座にはなぜ超高層ビルがないのか: まちがつくった地域のルール

 

 本書は今のGINZA SIXの計画が持ち上がったことをきっかけに危機感を抱いた地元銀座が所謂「銀座ルール」を今の形に作り上げていった経緯を銀座の歴史と特性を説明しながら記したものになります。

 

銀座のイメージは「昔からの固定的な地主が代々相続して事業や不動産業を営んでいる街」というものでしたが、意外にも明治煉瓦街、関東大震災大東亜戦争の際にそれぞれ半分ほど入れ替わっている新陳代謝の激しいものだという点です。これは普段の銀座のイメージにはありませんでした。

 

銀座街づくり会議については、著者は「お白洲に並ばされ旦那衆に頭を下げて許諾を得るようなイメージ」ではないと言いますが、一方で「銀座まちづくり活動の中心メンバーとして、大企業の社員たちが活躍する日も、いつかきてしまうのだろうか」という排他性というか選民意識というか、そういうものも見え隠れして鼻につく面はあります。