【Review】杉村太蔵:バカでも資産1億円 「儲け」をつかむ技術

 

 小泉郵政選挙で奇跡の当選を果たした直後、「料亭」発言をしてしまい有名になってしまった杉村太蔵さんの本。

 

これまでの人生遍歴が中心の話題で資産についてのことはほとんど書いてないので、資産形成の参考にするものではないですが、この人もこの行動力があって不遇だったのは氷河期世代(1979年生まれ)ならではと感じさせます。一番好きなのは自分をドイツ証券に拾い上げてくれた上司のライバルの架空接待の形跡を見つけ、証拠を集めるエピソードです(もっとも当時は誰でもやっていたような気がしますが)

【Review】白川克 :会社のITはエンジニアに任せるな!

 

会社のITはエンジニアに任せるな!

会社のITはエンジニアに任せるな!

 

 IT投資は重要すぎるのでITエンジニアに丸投げしていい問題ではないのと同時にITエンジニアだけで対処できる問題ではないことを説いた本になります。

 

企業が使うITには「ツール型IT(その時々で最適な道具として使いこなせるようなIT。例:メール、プリンター複合機)」と「プラント型IT(「ツール」と呼ぶにはあまりに複雑で会社の業務そのものと密着したIT)」があり、両者が全く違うものであることを説明し、企業にとって重視すべきは後者だとします。そして、プラント型ITはそのよしあしが企業の生産性に直結するにもかかわらずあまり重要視されていないというのがその主張です。

 

プラント型ITは業務と密着しているがゆえに業務とデータのすり合わせを地道にする必要がありますが、そのためには最初の設計思想、将来業務の構想が重要となってきます。また、技術的な問題よりも「従業員の反対」「中間管理職のコミットメント不足」「組織の壁」「作るものが決まっていないのに金額をコミットさせられる」という問題の方が事態を難しくします。こうして経営幹部・業務担当者とITエンジニアの断絶が発生していきます。

 

この、業務とともに長期的に育てていく「プラント型IT」という考え方は有用で、日本の不動産テックと呼ばれている企業が業界に革命を起こす、と言いながらその後鳴かず飛ばずになっていくのは、多様性に過ぎる不動産業者の業務が本来なら「プラント型IT」と親和性があるにもかかわらず、その手間を惜しんで「ツール型IT」で解決しようとしていることになるのではないかと考えさせられました。

【Review】小野恵:ポケット図解 減価償却がよーくわかる本

 

ポケット図解 減価償却がよーくわかる本

ポケット図解 減価償却がよーくわかる本

 

 減価償却は業務上の実務でも簿記の勉強でも頻繁に出てくるルールなので、感覚的には理解しているつもりなのですが、改めて説明を受けた記憶がなかったので、療養中に一読してみたものです。

 

見開き2ページで減価償却とは、というところから財務諸表との関係、各固定資産の考え方などが初心者にわかりやすいように解説されています。常識と言えば常識なのかもしれませんが、この分野全く興味や触れる機会がないまま来ているビジネスマンもそれなりにいるので、そういう方々が読むのに最適だと思いました。

【Review】木曽 崇:「夜遊び」の経済学~世界が注目する「ナイトタイムエコノミー」~

 

カジノの専門家でもあり、Twitterでも頻繁に情報発信している著者が、観光は「稼げる観光」でないと、結局疲弊するとし、ナイトライフエコノミー(日没以降翌朝までの間に行われる経済活動)の必要性について説いております。

 

ナイトライフエコノミーはキャバクラやダンスクラブのみではなく、それを支える交通、社会人向けの教育産業なども含めた広範なものだというのが、著者の主張です。不動産業界に身を置くものとしては、ここに書かれている「都市部の遊休化(使われていない時間帯がある状態)している不動産を最大限に活用して経済を活性化させるとともに、地域としては固都税の増大としてメリットが出てくる」という主張はわかりやすいものではありました(固都税払うのは不動産オーナーなので、この過程で賃料に跳ねないと意味がないのですが)

ここでは成功例として川崎、渋谷、八戸、中州、シンガポールが挙げられています。

 

一方で地域にメリットを提示できなかったために失敗した神戸、湘南、韓国のような例もあることも示されています。

 

自分としては都バスの山手線内深夜(終電後)運行、ドン・キホーテ稼働率向上策やシンガポールが如何にしてカジノをフックにして街全体に観光客を回遊させているかの取り組みは興味深いものでした。

反面、渋谷の取り組みが著者の言う「稼ぐ観光」にどの程度貢献しているのかがわかりにくかったですね。

 

全体としては不動産視点としても面白く読める本だと思います。

【Review】徳田耕一:名古屋駅物語

 

名古屋駅物語 (交通新聞社新書)

名古屋駅物語 (交通新聞社新書)

 

 名古屋駅周辺の歴史を知りたいと思い手に取ったのですが、とにかく文が読みにくいうえに著者の趣味なのか延々と車両の型式の話をしているので、休み休みでないと読むことができませんでした。

 

名古屋駅は元々広小路川を中心に発展し、その後建て替えで北上していった経緯や、今の太閤口のあたりのドヤ街だった頃の話など断片的に情報は取れたのでそれでよしとしました。

【Review】安田 陽:再生可能エネルギーのメンテナンスとリスクマネジメント

 

 本書は再生可能エネルギー、特に風力発電(一部太陽光発電)に焦点を当てて、事業として風力発電を手掛ける場合のメンテナンスの重要性について説いています。

 

メンテナンスの重要性については不動産においても、アクイジション(取得)とアセットマネジメント(期中管理)との利害の不一致として度々問題になります(アクイジションは想定収支上コストを最小限にしながら運用してみるとその想定では全く回らない)が、風力発電においても事業推進者が事業を予算内でローンチさせるためにメンテナンス費を削減して結果、後の運用に支障をきたす、ということが数多く起こっているということが示されています。

 

一方で新しい業界である再生可能エネルギー業界では、規格の整備も不十分であったり、メンテナンスを行う人材の供給が全く追いついていないという制度や体制側の問題も提起されています。この点については、メンテナンス業は業態上地域密着とならざるをえないので、うまく育てれば地域の雇用を生み出すと感じました。

 

一部では悪名高いFITも新規産業を推進するための補助金として見ると明確に期限が決まっているという点で、従来のなんとなく続いていく補助金よりも優れているという論については新鮮なものでした。

 

再生可能エネルギーにはあまりいいイメージを持っていないのですが、可能性は感じさせる一冊だったと思います。

【Review】特掃隊長:特殊清掃 死体と向き合った男の20年の記録

 

 私はまだ遭遇したことはありませんが、不動産に関わっているとしばしば家で人知れず死んでしまった人の話を聞きます(実際本書にも不動産業の人間はよく出てきます)。

 

遺体があった部屋は物理的にも凄まじい状態になりますが、本書はそれを処理する「特殊清掃」に携わる"特掃隊長"がその仕事のことを淡々と記したものになります。仕事だからやっているというように本当に特掃隊長にとっては日常のこととして書かれています(各章は大体遺体が見つかって依頼が入るところから始まる)

 

病気の娘の余命がわかっていて、それを覚悟し、死んだ時も受け入れることができたが、娘の遺体が1日と経たないうちに腐敗して醜く膨れ上がることは覚悟も受け入れることもできなかった母親の話、いつもと同じように腐乱痕を処理していたら途中でそれが知り合いのものだったわかり、仕事を仕事として処理できなくなってしまった話、自分の恩人が孤独死するのを気づけなかったことを悔やみ、プロが感心するほど腐乱痕を処理していた依頼者の話が印象的でした。