【Review】阿部 泰隆, 野村 好弘, 福井 秀夫:定期借家権

 

定期借家権

定期借家権

 

 本書は定期借家契約が導入される直前期に、当時の定期借家契約推進派の学者達によって書かれました。

 

これを見ていて面白いのは、導入期にあった(そして今でも散見される)定期借家契約反対派の「定期借家契約は借家人という弱者を困窮させる」という主張に対し「弱者を救済するために定期借家契約を導入する」と主張していることですね。

 

彼らの言う弱者とは「正当事由由来の住宅供給の歪みのために借りたくても借りられない潜在的な借家人(主としてファミリー層)、母子家庭、老人」なので、反対派のいう「弱者」は既得権益者となります。そして、正当事由理論を構築し、定期借家契約には反対していた当時の法務省民法学者も既得権益者に入ります。

 

基本的には推進派の学者たちによって書かれているので、バイアスはあるのですが、民法学者は「もともと公共が担保すべき弱者の住宅確保という福祉政策を、なぜ、地主や大家という私人に負わせ、犠牲にしたまま放置しておくのか」という問いに答えられないので、結局勝てませんでしたね。