【Review】渡辺 晋 ,日本ビルヂング経営センター:最新 ビルマネジメントの法律実務

 

最新 ビルマネジメントの法律実務

最新 ビルマネジメントの法律実務

 

 本書はビルマネジメントに係る法律関係の話題にはしばしば登場する渡辺弁護士の概説書になります。関係の深いビルヂング経営センターも名前を連ねています。

 

ビルに係る法律問題を「ビルのいま」「ビルを借りる」「ビルを貸す」「ビルを守る」「ビルを託す」「ビルを買う」「ビルを売る」「ビルを建てる」に分けて解説しています。

 

260ページにこれだけ詰め込んでいるので正直一つ一つの話題は薄いと言わざるを得ないのですが、オフィスビルに限定した類書が少ない「借りる」「貸す」「守る」あたりは発行から10年経った今でも取っ掛かりとして役立つかと思います。

 

取っ掛かりという意味ではオフィスビルに関する裁判例の概要が豊富なので、この本をガイドにして個別の話題に関して別書で調べていく、という使い方が一番適しているかと思います。

【Review】杉原 淳子 , 森重 喜三雄 , 久野 喜義 他:新ホテル運営戦略論―日本型ホスピタリティ経営を目指して

 

新ホテル運営戦略論―日本型ホスピタリティ経営を目指して

新ホテル運営戦略論―日本型ホスピタリティ経営を目指して

 

 最近ホテル(業界、事業、投資対象としての特性)を読み始めたのですが、本書は主に事業について概説したものになります。冒頭で『新総支配人論』という本の続編であることが述べられていますが、特に読んでいなくても問題ありません(私も読んでいません)。

 

200ページほどの本なので、それほど事細かくホテル事業について解説するということではなくて、当時(2009年)の業界の課題と各執筆陣の専門分野を重点的に取り上げているような構成です。

 

門外漢としてはユニフォームシステム、イールドマネジメント(レベニューマネジメント)についての概説は取っ掛かりとして助かりました。また、外資系ホテルと日系ホテルの営業組織の差異なども参考になりました。

 

その他目を引くのは、東日本大震災前にもかかわらずBCPに一章割かれていることで、これは不特定多数を顧客とするホテルアセットならではだと思います。

 

新 総支配人論―グローバルホテル経営の日本的着地を目指して

新 総支配人論―グローバルホテル経営の日本的着地を目指して

 

 

【Review】信田 直昭 , 不動産マネジメントビジネス研究会:オンリーワン時代の不動産マネジメントビジネス

 

オンリーワン時代の不動産マネジメントビジネス (住宅・不動産実務ブック)

オンリーワン時代の不動産マネジメントビジネス (住宅・不動産実務ブック)

 

 以前紹介した『ビルオーナーのためのプロパティ・マネジメント入門』と同じころに書かれているため、プロパティマネジメント(PM)、アセットマネジメント、ビルマネジメント(BM)の関係性がどのようになっていくのかということがまだ見えておらず、米国との比較で言及されている趣が強いです。

 

中心の話題はプロパティマネジメントなんですが、ビルオーナーのためのプロパティ・マネジメント入門』と比較すると、実務者との対談形式なので、より現場寄りの話が多い印象です。

 

日本の法体系の中ではPM会社のリーシング部門は充実しにくい、BM会社の教育体制、現業部門疲弊など今でも運用上抱えているだろうという課題は出ていますが、2017年になっても特効薬は思いつかないですね。

 

特に共感できたのは「大規模開発プロジェクトの経営管理業務(その特徴・・課題・展望」という六本木ヒルズの街区統合管理を紹介した章で、権利者の多い大型複合施設の管理の概要が説明されているのが勉強になります。この手のスキームは15年くらい経つと構築時の当事者がほぼいなくなるので、今現在どのような課題が出ているのか、そういうことにも興味がわきます。

【Review】ジョーンズ ラング ラサール:東京オフィスルネッサンス  大量供給を迎えるオフィス市場と都市の活性

東京オフィスルネッサンス 大量供給を迎えるオフィス市場と都市の活性

http://www.joneslanglasalle.co.jp/japan/ja-jp/Documents/Other%20Reports/JLL_Japan_Office_Demand_201612_J.pdf

 

2016年末にリリースされたレポートですが、今までなんとなく言われていた「空室率の低下の割に賃料が上がらない」現象の要因をまとめています。

 

空室率(三鬼商事)が3%台に突入しているので、当然、新規賃料上昇も継続賃料の増額改定も行われてはいるのですが、2006年の熱狂ほどではないのはなぜか。

 

空室率は2000年以降でもっとも低かった2006~2007年並と同じでも空室量となると当時の1.5倍である、という数字はとかく空室「率」の方に目を向けがちな傾向のある中、覚えておくべき現象だと思います。

 

時事性のあるトピックなので、コンテンツの寿命は短いと思いますが、2017年8月くらいまではこの説明で引っ張れるのではないかと。

【Review】西浦 三郎:ヒューリック ドリーム/企業の成長と社員のやりがい、トップは会社を変えられる

 

ヒューリック ドリーム/企業の成長と社員のやりがい、トップは会社を変えられる

ヒューリック ドリーム/企業の成長と社員のやりがい、トップは会社を変えられる

 

 今をときめくみずほ銀行系不動産会社ヒューリックの成長物語を社長が自ら語る本書は、スタイルとしては中期経営計画と私の履歴書の足して2で割ったような感じです。

 

個人的な記憶を思い起こすと、2010年ごろ、当時所属してた会社の同僚と「ヒューリック行きてぇな」と言い合っていたので、外から見ててもその頃から勢いが出てきていたのでしょう。そうすると7年以上勢いが続いているということになり、時に危うさを指摘されながらも、その勢いの一旦くらいは見たくて手に取ってみるわけです。

 

懐かしの日本橋興業時代の話から戦略の順序とタイミングを見極めながら、中堅不動産会社としての事業領域を広げていく過程やビジョンなんかは本を読んでいるというよりもPowerPointの資料を読んでいるかのようでさくさく進めることができます。

 

個人的には2日で物件取得の決断をするという決裁スピードの速さとその意思決定ルートが驚きで、この手の出自の会社で本当にそんなことができるのかとにわかには信じがたいです。西浦会長自身、今までは大きな失敗はなかったと言っているように、この話が本当だとしても現状ではこれでうまく回っているのでしょうが、一つ大きな失敗が起きた時、それを維持できるのかということが課題に残るんではないでしょうか。

 

ただ、この本の一番のメインターゲットは不動産業界人ではなくて就活生なんじゃないかなって思ってます。多少誇張があったとしてもあの職務環境を繰り返し強調されたら第一志望にする就活生結構多いんじゃないかな。同時にこの福利厚生が維持できるのは高収益体質が維持できている間だけ、という趣旨の(当然の)逃げ道も記載されています。

 

 

【Review】八木 祐四郎:ビルメンテナンスのすべて―ビル機能の効率的運営

 

ビルメンテナンスのすべて―ビル機能の効率的運営

ビルメンテナンスのすべて―ビル機能の効率的運営

 

 本書は当時の東京美装興業社長により、バブル崩壊間もない94年に出されましたが、書かれていることは私がビルメンテナンス(BM)会社の監督をしていた2010年代の光景とあまり違わないので、20年以上経っても、BM業界は変わらないですね。

 

この時期からBM業界は人材不足による高齢者、女性、非正規社員の活用で成り立っていることがうかがえ1章割いて「ビルメンテナンスの雇用問題」について論じています。昔も今も清掃員が集まらないって言ってたんですね。

人材不足、ビル設備の高度化、ワークスタイルの変化・多様化への対応、情報化の進展が課題に挙げられていますが、たぶん今でも課題であり続けていると思います。

 

20年以上前の本なので、細かい法令や業界の現状は違っていると思いますが、業務の概略は書かれている頃からそれほど変わっていないので、BM会社の人間がどういうことをやっているのかイメージするにはよいかと思います。管理コストを算出する際の積算方法についての簡単な説明が載っていて、これが一番参考になりました。

【Review】オフィスビル総合研究所「ベースビル研究会」:新 次世代ビルの条件

 

新 次世代ビルの条件

新 次世代ビルの条件

 

 本書は今から10年前に「次の時代に社会・経済・人間が求めるオフィスビルはどのようなものか」というテーマで、出版されました。

 

テーマがテーマなので、実務に直結するような知識が得られるわけではないですが、1つあたり4~5ページでまとめられているトピックは建築、設備、投資、管理、環境、FM等多面的な視点で設けられているので、ある程度実務を経験された方なら、気づきが持てるような構成になっています。オフィスビル総合研究所は三幸エステートの関連会社ではありますが、それほど市場性偏重という感じではなくて、むしろその話題は少ないくらいです。

 

10年経ってみてこの中で言われていることの中ではシステム天井や環境系(環境規制)の話あたりは概ね書かれているような展開にはなっています。逆に本書が全編にわたって推しているスケルトン・インフィルについてはまったく主流にならないまま現在に至っています。

個人的には「LCCを考えたら、設備には特注品を使用するのは避けるべきだ」という主張には特注品だらけの物件を管理した経験から非常に強く共感します。

 

2014年に続編となる『オフィスビル2030=-近未来ーオフィスビルは必要か?』も出版されているので、どのようにスタンスが変わったのか見てみるにもよいかと思います。いずれにせよ、落ち着いた時間のある時に読むべき本です。