【Review】森 稔:ヒルズ 挑戦する都市

 

ヒルズ 挑戦する都市 (朝日新書 200)

ヒルズ 挑戦する都市 (朝日新書 200)

 

 森ビルの森稔氏が生前に出していた新書で、テイストは私の履歴書に近いものです。タイトルが「ヒルズ」なので、最初のアークヒルズ、象徴としての六本木ヒルズの話が中心で最後に上海環球金融中心と環状2号線開発の話が加わっています。

 

最初の100ページは都会開発に関する自らの持論が続き、ほとんど金の話が出てこないので、本当にディベロッパーの話なのかよくわからなくなりますがナンバービルや再開発の権利調整の話になると(きれいに書いていますが)貸ビル業、ディベロッパー的な話になっています。リクルート江副浩正氏に第2森ビルの屋上(ペントハウス)を貸した話なんかもあってナンバービルやっていて上昇気流に乗っていく頃の話が一番好きかな。

 

広報等のソフトも含めた長期的なタウンマネジメント(の触り)については森ビルのような長期で街づくりをする志向でないと力を入れられないことですし、ワンフロアは大きい方がいいと言って六本木ヒルズの基準階を1400坪にした話などはのちに振り返ってみれば卓見だったのだと言わざるを得ません。

 

一方で森章や森トラストの話はただの一文字も書いてないので、ここに書かれていない(書けない)ことでも1冊以上本が書けるだろうと想像すると残念ですね。『ヒューリック ドリーム』と同じく不動産業界志望する就活生は一度は目を通しておいた方がいいかもしれませんね。

 

 

real-puppet-man.hatenablog.com

 

【Review】田中 毅弘, セコム:ビルマネジメントの新しい知識―リスクとセキュリティを考える

 

ビルマネジメントの新しい知識―リスクとセキュリティを考える

ビルマネジメントの新しい知識―リスクとセキュリティを考える

 

 ビルマネジメントにおけるリスクとセキュリティというかなり地味な題材の本です。共著ではありますが、編集はセコムという割と珍しい本でもあります。

 

中身は「PMとBMの間、セキュリティ要素強め」という印象でやはりかなり地味です。現場重視のBM従事者が読むとも思えず、PM従事者が読むにも範囲が偏っていてとっつきにくいんではないかと感じました。ビルマネジメント系の本はそれほど数があるわけではないにもかかわらず、(さして売れたとも思えない)類書と比較してもまったく売れた形跡がないので、それだけ読者を選ぶ内容になっていると思います。

 

とはいえ、日々雑務に追われるPM業務、BM(統括)業務を経験した後で読むとこの本に書かれているセキュリティ理論やメンテナンスマネジメントの考え方は参考になると思いました。これらの話題は断続的に実務で求められるもののどう手掛けたらいいのか頭の中で整理しづらくやっつけになりがちな分野でもあります。共著ゆえにやや整合性を欠く部分や何の説明もなく名将もわからないソフトウェアの話が始まったりする部分はありますが、全般的に図表はよく整理されているので、頭の整理をするの助けになります。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

築10年ほど経過の建物でタイルの浮きが発生した場合、ビルオーナーが「技術を信頼して、お願いしているのに瑕疵ではないか」と詰め寄っても、ゼネコン側は「経年劣化での浮きだ」と主張し、きまって「(財)日本建築防災協会」の資料を示して、この協会資料によると築10年経過建物の平均タイル剥離率は17%なので、他の建物例から見て貴社は決して多くないと説明する。(101ページ)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

これ、確かに言われたことあります。

 

real-puppet-man.hatenablog.com

 

 

【Review】山内 和美:ラブホテル経営戦略

 

ラブホテル経営戦略 (QP books)

ラブホテル経営戦略 (QP books)

 

 投資対象としての不動産としてはあまり取り上げられることのないラブホテルについて、そのオペレーションとともに解説しています。解説と言っても軽い感じで読める本です。

 

通常のビジネスホテルと違い回転率の差が非常に大きな差を生むアセットなので、その時間単位の料金設定の妙や主要3顧客層(不倫、玄人、若者)の特性の違いによるオペレーションの変化など、なんとなくわかるものの改めて言われると「ああ、そうか」ということが記されています。「ラブホテル経営者がお勧めするラブホの選び方」とか当然なんですけどまとまっていておもしろかったです。

 

あとは利用者の目的が目的なので通常のアセットよりも清掃に関する記述は多いと感じました。特別清掃、本掃に加えて追掃という簡易清掃まであるのはラブホの回転率の故ですね。軽めの200ページのボリュームで清掃がこれだけ取り上げられるのは少なくともオフィスではないし、シティホテル、ビジネスホテルの教科書でもないと思います。

【Review】ジョン・トラボルタ (出演),スティーブン・ザイリアン (監督) :シビル・アクション

 

 民事(傷害法)専門の零細法律事務所を経営するシュリットマン弁護士。

ウーバンという小さな町の儒民から依頼を受けます。子供の白血病が異常に多く、その原因の責任者(最初は誰なのかもわからない)に謝ってほしいと。

 

最初は断るつもりだったシュリットマン弁護士ですが、町にある大企業の工場が原因ではないかと感じた彼は多額の賠償金を取れるのではないかと踏んで一転依頼を受けることに…というストーリーです。

 

派手な展開はありませんが、企業の不動産利用について環境対策を怠ると多額の費用とレピュテーションに係ることを教えてくれます。日本でも水俣病の昔ならともかく現在はここまで露骨な事例は少ないと思いますが、なかなか評価されにくいことが課題ですね。

 

実話をもとにした映画ですが、シュリットマン弁護士がこの訴訟を機に環境法専門の弁護士にキャリアチェンジしたというのが少し面白かったです。何がきっかけになるかわかりません。

【Review】ウィリアム・J・ポルブー, ジェフリー・L・クルクシャンク:ハーバード・ビジネススクールが教える不動産投資ゲーム

 

ハーバード・ビジネススクールが教える不動産投資ゲーム

ハーバード・ビジネススクールが教える不動産投資ゲーム

 

 Twitterでも不動産業界の方々の話題に上ることがあったもののずっと積読となっていたのが本書です。ファンドバブルに沸く2007年発行で翻訳が不動産証券化研究会ファイナンス研究会というある意味当時の時勢を反映した本だともいえます。

 

内容は不動産投資に対する考え方(4つの要因)から始まり、簡単な収支分析、取引の流れ、新しく登場した投資形態(REITなど)の説明、開発、運営管理(AM)、出口まで一通り極めて教科書的かつ読みやすく説明されています。本当にこんなにものわかりのいい方々ばかりなのだろうかとも思いますが、そこは教科書なので。

 

日本でも一時信頼を失いかけたREITですが、アメリカでも紆余曲折があって比較的落ち着いた投資対象になったことが語られています(リーマンショックの前ですが)

その辺も興味深かったのですが、UPREITなどやはりアメリカの制度を理解していないとスッキリと頭に入ってはきませんでした。

【Review】滝澤ななみ:スッキリわかる 日商簿記3級 第4版 (スッキリわかるシリーズ)

 

スッキリわかる 日商簿記3級 第8版 [テキスト&問題集] (スッキリわかるシリーズ)

スッキリわかる 日商簿記3級 第8版 [テキスト&問題集] (スッキリわかるシリーズ)

 

 プロパティマネジャーになると、当然物件の予算に責任を持つことになるので、予算管理に携わっていかないといけないんですが、ずっとソルジャー営業をやっていた自分は未収金、未払金もよくわかっていない状態だったので、これはまずいそ、と勉強し始めた時に使用したのが本書です。

 

簿記3級なんで世間的に見れば大した難易度ではないんですが、社会に出て何年も経ってから新しいこと学ぶのは新鮮だった記憶があります。期中の物件管理レベルの予算管理であれば、簿記3級レベルのことがわかっていれば十分でもあるので、「今さら」と思わずにやり切れたのはよかったかな。

「いい歳だから」と尻込みしたり恥ずかしがったりしないでやりきる経験になりました。

 

内容はよくある簿記の教科書ですがネコのゴエモンが個人商店を経営しながら簿記を学ぶという仕立てなので、猫が好きな自分には相性が良かったです。この分野では大手のTAC出版発行なので、当時第4版でしたが、今は第8版になっているようです。 

スッキリわかる 日商簿記3級 第4版 (スッキリわかるシリーズ)

スッキリわかる 日商簿記3級 第4版 (スッキリわかるシリーズ)

 

 

【Review】植野 正美:アメリカビル物語―プロパティマネジメント奮戦記

 

アメリカビル物語―プロパティマネジメント奮戦記

アメリカビル物語―プロパティマネジメント奮戦記

 

 「本書は、プロパティマネジメント(不動産物件管理)のサクセスストーリーである」と冒頭で述べられている通り、不況下に竣工してしまったシアトルのビル(U.S. Bank Centre)を不動産のことなど何もわからないH社(ハザマ)の社員が立て直すという読み物風の本となっています。この文体はちょっと鼻につきます。

 

90年代半ばのシアトルが舞台なので、今から見ると20年前のアメリカの話なのですが、現代の日本と比べてみるという感じの軽い読み方をするのがいいのではないかと思います。

 

当時としてはトロフィーアセットというためか、新PM会社のLP社(ラサールパートナーズ)の担当チームが非常に潤沢で羨ましくなりました。今の日本のPM会社だと10万㎡級の物件でも意外と貧弱な陣容でまわしているケースも見受けられます。

また、人件費はPMフィーとは別建てでオーナーに請求できるというのは日本のPMが当初とはずいぶん違うものになっている要因であると思いました(アメリカは管理費が実費ということとのセットだと思いますが)

そしてオーナーがテナント内装費を負担するという慣習も日本でいう定期借家契約に基づく確定的で予測しやすい収益構造とのセットなのだと感じさせられます。未だに普通借家契約の日本では根付かないでしょう。

 

エピソードとしては清掃係にユニフォームを支給して士気と連帯感を高めたという話が好きです。

 

U.S. Bank Centreを検索してみたらCBREによるHPが出てきました。

www.usbankcentre.com